T.首都圏整備から見た東京湾臨海地域の位置づけ
東京湾臨海地域は、わが国の経済社会が大きな転換期を迎えている今日、首都圏がかかえる諸課題を解決する場として、また、21世紀にむけてわが国を牽引する可能性のある地域として、改めて重要な位置づけを与えていく必要がある。 |
@ 東京湾臨海地域は、海を有していること、これまで工業・物流的利用が卓越していた
こと、既成市街地に隣接して土地利用の自由度の大きな空間を有すること等の特性を有
しており、それらを活かした個性ある整備が求められている。
A わが国の戦後の高度経済成長を支えてきた歴史ある工業地帯において、急速な空洞化
の進展が懸念されており、そうした動きに対処する必要がある。
B 東京湾臨海地域において、各種のプロジェクトが現在進行中であり、時代の転換期に
対応した新たな位置づけが求められている。
C これらの土地利用にあたっては、21世紀にむけてわが国を牽引しうる新たな機能立地、
また、次世代に夢を与える空間としての利用が求められている。
D 東京湾臨海地域内における広域連携、各拠点間の連携の強化による競争的発展、各拠
点の特徴を活かした機能分担を図ることが求められている。
E 東京湾臨海地域は、内陸の環境改善に寄与しうる空間として、また、市民が海に接す
ることができる空間としての利用が求められている。
F 環境と共生した地域づくり、地震等の災害に強いまちづくりが求められている。
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U.東京湾臨海地域整備の再検討にあたっての3つの視点
東京湾臨海地域が直面している当面の再検討課題としては、生産機能のあり方、環境
との共生、防災対策の3つが考えられる。3つの分野において、それぞれの視点から整
備の方向を探る。
U−1 東京湾臨海地域に立地している生産機能の動向とあり方
@ 東京湾臨海地域の工業立地の過半を占めている素材産業は、我が国の産業構造や、研
究開発の面で重要な位置づけを有しているものの、国内産業の再編、アジア等を中心と
した海外地域の発展の中で量的に縮小していく方向にある。
A 電力、ガス、石油等のエネルギー機能については、首都圏民の生活を支えるエネルギ
ー安定供給の観点から、一定程度確保する必要があり、立地ニーズも高い。環境と調和
した形での立地のあり方を模索する必要がある。
B 既立地生産機能については、研究開発機能の強化、母工場化、生産プロセスの合理化
等が課題になるとともに、資源、環境に配慮した展開、たとえば、省エネルギー化、リ
サイクル資源の活用、環境への負荷が軽減された素材、製品の開発等が課題になってい
る。
C このような臨海地域の再編に伴い発生すると見込まれる遊休地は、さみだれ的に生ず
るところから、新しい利用を図る上でむずかしい課題をかかえている。土地利用の再編
に寄与しつつ、新しい時代のニーズに合った利用を積極的に創り出すことが求められて
いる。
D 生産機能のあり方という視点からは、これらの低・未利用地等について、新産業の展
開を支える研究開発やモノ創り等の主要な役割を果たす基地、またこれからの時代をリ
ードする新しい産業の孵卵器としての役割が期待されている。
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U−2 東京湾臨海地域の環境整備のあり方
@ 東京湾の環境整備にあたっては、東京湾の環境を維持している基本的な構造、自然の
地形をベースにした環境を構成する枠組み、たとえば、東京湾奥は泥、中央部は砂、湾
口は岩が多くなるといった構造を認識し、それに対応した環境の整備を図ることが大切
である。また、都市地域においては、自然と人工を明確に分けることはできず、自然か
ら人工へ連続的に変化するものと捉える中で、人工的に形成したなぎさなども将来的に
は自然環境として捉えることができることなどを踏まえつつ、どれほど自然の濃度を濃
くすることができるかを考える視点が必要である。
A 東京湾が存在することによって、ヒートアイランド現象の緩和や湾と内陸の間の風の
行来による空気の清浄化等が生じており、大都市東京の気候、大気環境が維持されてい
る。また、東京湾は、干潟による海水の浄化効果、湾外の海水の出入による希釈効果等
の水質保全機能を有している。
B 東京湾の自然再生のコンセプトは、海域と陸域の接点である干潟や砂浜、岩浜等の
“なぎさ”が基本である。“なぎさ”を中心に、河川の環境改善、森・緑地の創生や産
業地帯の中の緑の活用、ビオトープ(生物が生息しうる空間のまとまり)の創生等によ
り、多様な自然を内包した環境を形成する必要がある。
C また、埋立による工業化が急速に進んだここ数10年より以前は、一般の人が自由に海
に接することができていたという状況を考慮しつつ、現在の段階で新たに一般の人が海
に接することができる空間、一般の人が利用する緑地空間等、ひとが利用するという視
点からの多様な環境の整備が求められている。
D こうした方向の施策の積み上げをふまえて、東京湾全体での開発の総量規制目標、自
然の総量達成目標等を検討していく必要がある。
E 廃棄物については、資源化や減量化、建設残土についてはその有効利用を徹底的に図
るべきである。その上で、埋立が必要となる場合には、その埋立地を環境の創造に寄与
させていく必要がある。
また、世界から有機系の燃料、原材料、食料を集めているところから、有機物を資源
として再利用する仕組みをつくって、アジア等の地域に戻していくといった資源循環型
の考え方について今後考慮していく必要があるとの指摘もあった。
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U−3 東京湾臨海地域の防災対策のあり方
@ プレート周辺や活断層で生じる直下型地震に対する対応策を急いでさらに充実させる
必要がある。
A 東京湾臨海地域の特性であるコンビナート地区について、地区内外での発災に対する
対応策を整備する必要がある。長期的には、産業の動向を見定めつつ、また、パイプラ
イン等の活用による危険物取扱施設の移設や危険物貯蔵施設の地下化等を図りつつ、適
正な土地利用の再編を誘導すべきである。また、海上輸送の安全性の観点から危険物取
扱施設の新規立地については、極力抑制していく必要がある。
B 臨海部の埋立地においては、液状化の危険性を有するところが多い。ネットワーク施
設の補強、リダンダンシーの確保等に努める必要がある。
C 臨海部の埋立地に隣接した既成市街地において、防災上の課題をかかえている地域が
あり、埋立地の低・未利用地の活用を通じてそうした地域での防災対策の充実に寄与す
る必要がある。
D 既成市街地における被災に際し、臨海地域が緊急物資・人員の輸送を中心に、救命、
消火、啓開、復旧等に多くの役割を果たすことが期待されている。被災地を支援する防
災拠点とそのネットワークを臨海地域に整備する必要がある。
E 東京湾の東西で、情報、物流、エネルギー、生産等の諸機能を分担、補完、代替でき
る体制を整備し、地震等が生じた場合、大都市全体の機能を維持しつつ、被災地の復旧、
復興がスムーズに図れるような体制を整備する必要がある。
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V.東京湾臨海地域のグランドデザインを求めて
V−1 創造・環境帯の形成
東京湾臨海地域は今後のわが国の発展の鍵を握る重要な空間であり、また、自然環境を維持、保全、活用していく上で貴重な役割を果している地域である。@東京湾臨海地域の製造業を中心とする産業地帯における創造機能の強化、環境産業への展開支援、環境機能の強化、A拠点となる地区における業務機能や新産業、新ライフスタイル、新文化等の創造とそれにふさわしい環境の形成、B自然生態系に配慮した環境拠点とそれにつながる水と緑の帯(環境のストラクチャー)の形成の中で、帯状の地域が相互に連携し、強化しあえるような地域整備−創造・環境帯の形成−を図ることとする。 |
(1) 創造・環境帯の空間イメージ
@ 空間イメージ
・既存の産業地帯においては、素材産業は量的に縮小傾向にある一方、エネルギー機能
は確保することが求められる中で、既立地生産機能について、創造機能の強化、環境
産業への展開の支援、さらには環境機能の強化を図る。
・都市開発が進められている拠点地区や産業地帯内で新たに発生する遊休地を中心に、
産業と生活と自然が共生した緑豊かな複合的土地利用を実現し、創造拠点とする。
・東京湾の環境を維持している基本的な構造、自然の地形をベースにした環境を構成す
る枠組みを認識し、自然生態系に配慮した環境拠点を河川と海との接点等の要所に配
し、それにつながる水と緑の帯を整備する中で環境のストラクチャーを形成する。
・コンビナート地区における防災性の向上、東京湾の東西での適正な各種機能の分担、
リダンダンシーの確保、防災拠点の整備等により、防災対策の強化を図る。
・これらの産業地帯、創造拠点、環境拠点を広域的交通基盤及び水と緑の帯で結ぶこと
により、新しい創造・環境の形成に寄与する帯状の地域−創造・環境帯−を形成して
いく。
A 創造・環境帯を支えるストラクチャー
・東京湾臨海地域は、港湾、空港、幹線道路、鉄道等の交通基盤施設に支えられ、その
機能を発揮している。
・そのうち、湾岸沿いの幹線道路については、それぞれの区間ごとに、東京都心を中心
とした放射、環状の道路体系に組み入れられており、結果として多様な機能を担わさ
れている。そのため、東京〜千葉間等著しく混雑する区間も生じており、それぞれの
幹線道路の機能分担、役割を勘案しつつ、創造・環境帯を支える基盤施設として、環
境への十分な配慮を行いつつ、東京湾環状道路体系の整備を進める必要がある。
・上記の点を踏まえた上で、東京湾臨海地域においては、環境への負荷を軽減した交通
手段、たとえば、既存の貨物線を活用した鉄道や環境への配慮がなされた幹線道路、
さらにはコースタル・バイシクル・ウェイ(湾岸自転車道)等で湾岸地域を結び、創
造・環境帯を形成する。
・同時に、創造・環境帯としてその機能を十分発揮していくためには、湾岸沿いの連携
だけではなく、内陸との連携を重視し、形成していく必要がある。つまり、創造・環
境拠点から内陸へむかう交通軸を整備し、内陸の既成市街地と密接に連携した地域と
していく。
(2) 創造・環境帯による地域連携の意義
@ 環境拠点、河川沿いの水と緑、産業地帯内の連続した水と緑、創造拠点内の緑のまと
まり等により、東京湾臨海地域の自然環境を構造的に強化することができる。
A 東京湾臨海地域内での連携、機能分担の視点を入れることによって、わが国の経済、
産業にとって重要な役割を果たしている東京湾内の産業地帯の土地利用の効率化、創造
機能の強化を促進することが可能になる。
B 臨海地域の各拠点間の連携の強化により、競争的発展、各拠点の特徴を活かした機能
分担を図ることができる。(たとえば、コンベンション施設、文化施設、アミューズメ
ント施設の機能分担。)競争的発展の中で、他の拠点と区別された高質な空間の形成を
誘導することができる。
C 臨海地域の各地区間等を自由に往来する“湾岸人”とも呼べる新たなライフスタイル
が生まれるなど、臨海地域で豊かさを実現する新しい生活空間の連なりが形成される。
D 帯状の埋立地に閉じるのではなく、背後の内陸側に開かれた、あるいは、内陸と密接
に連携し内陸の安全、環境等の形成に寄与できる空間とし、東京圏の様々な課題解決の
沃野とすることができる。
(3) 創造・環境帯形成の基本方向
@ 産業地帯における創造機能の強化、環境産業への展開支援、環境機能の強化
・既立地産業での研究開発機能等の強化、研究開発拠点の形成や、これから成長する情
報関連等の産業の導入により、産業地帯における創造機能の強化を図る。
・既立地産業の産業活動については、東京湾臨海地域が貴重な環境資源であることに鑑
み、省エネルギー化、省資源化、低環境負荷化を徹底するとともに、エネルギー産業
については地球環境、地域環境との調和を図る。長期的には、ゼロエミッション(生
産過程から出る廃棄物を他の生産過程の原料等として利用し全体として廃棄物の排出
を無くす)が実現しうるような技術体系の変革を誘導する。
・廃棄した時に有害化しない、リサイクルがしやすい等の環境への負荷が軽減された新
素材、製品等の開発、環境関連機器の開発、生産等により、地球全体の環境の改善に
寄与する。
・既立地産業についてこれからの時代に必要とされるリサイクル資源の活用や環境への
負荷が軽減された素材、製品の開発、更に、環境関連機器の生産や環境産業(リサイ
クル産業、廃棄物処理産業等)への展開を支援するとともに、新たに発生する遊休地
への環境産業・施設の新規立地を図る。
・港湾・物流機能については、情報化、ロジスティクス化を図る中で、交通流動の合理
化、省エネルギー化等を進め、臨海地域の環境の改善を図る。また、今後必要となる
港湾の整備にあたっては、大規模遊休地等を活用し、新たな埋立による負荷を軽減す
る。
・産業地帯内に形成されている工場内緑地、緩衝緑地等を有効に再編、強化、整備し、
研究開発等の機能を強化した創造的な空間にふさわしい緑の環境を形成するとともに、
視覚的にもわかりやすい緑の帯を造り出す。
A 創造拠点における創造機能の強化、豊かな環境の形成
・みなとみらい21や幕張新都心に代表される臨海地域の拠点地区等を中心に、情報、生
活文化等を中心とした成長産業を導入するとともに、多様な分野のベンチャー企業が
輩出するような創造的な環境、産業と生活と自然の共生空間、複合空間の整備を図り、
創造拠点とする。
・創造拠点に居住機能を導入し、新しい豊かなライフスタイルや文化を創造する。そこ
で生活する“湾岸人”の生活の圏域は、内陸の既存都心のみならず、湾岸に展開する
海や海辺の緑、アメニティ、アミューズメント、商業、文化、そして、就業の場等に
恵まれ、相互に交流する豊かな広がりを持つことがイメージできる。
・環境拠点との連携を強化つつ、創造空間にふさわしい緑の環境を形成することにより、
自然環境と共生した創造拠点の形成をめざす。
B 東京湾の自然環境を構造的に強化する環境帯の形成
・東京湾の中で、特に重要な自然区域を環境拠点とする。
・海域と陸域の接点にある干潟や砂浜、岩浜等の“なぎさ”を大事にし、“なぎさ”を
中心とした緑のまとまり、自然生態系に配慮した環境拠点を各地区の特性を生かしな
がら、要所に形成する。
・環境拠点は、立地の特性から、多様なタイプが考えられるが、大きくは、干潟等の自
然生態系を維持する機能を重視するタイプ(自然生態系型)と、人工海浜や親水護岸
等都市近傍の貴重なアメニティ空間として一般の人の利用を中心としたタイプ(市民
利用型)にわけて考えることができる。
・環境拠点ならびに海辺、運河の水と緑、河川の水と緑をつなぎ、東京湾の自然環境を
構造的に強化する。
・産業地帯内や創造拠点内の豊かで多様な緑の環境を取り込み、東京湾の新たな環境帯
の形成を図る。
C 臨海地域と内陸地域の連携
・創造的な空間形成に当たっては、臨海地域の各拠点間の連携と共に、内陸との連携を
深めることが重要であり、内陸からの交通手段の整備が不可欠である。
・一般の人が気軽に海に親しめるようにしていくため、アクセスルートの確保や海に接
することのできる多彩な空間の整備を図り、海を一般の人に開かれたものとしていく。
・さらに、内陸の住工混在、基盤の未整備、アメニティ不足等の課題を解消する空間と
しても活用するとともに、地震災害時に内陸の被災地を救援する防災拠点の整備・充
実を図る。
・また、環境拠点の形成にあたっては、内陸の環境拠点との連携を図り、東京圏の自然
環境を構造的に強化する。
以上に述べた「創造・環境帯の形成」のイメージを概念図として整理すると次頁のよう
になる。
創造・環境帯の概念図
参考:東京都心を中心とした放射、環状の道路体系
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V−2 創造・環境帯をつくるための7つの戦略
(1) 産業地帯における創造機能の強化、環境産業への展開支援
@ 創造機能の強化
・既立地産業における創造的な研究開発機能の強化
・産業地帯内に新たに発生する遊休地等の研究開発拠点化
A 省資源化、低環境負荷化
・既立地産業における省資源化、低環境負荷化への対応
・エネルギー産業における効率化、省資源化、地球環境問題への対応
B 環境産業への展開支援
・環境関連機器の生産、環境への負荷が軽減された素材、製品の開発
・リサイクル資源の活用、環境産業への展開支援
・環境産業・施設の新規立地
(2) 産業と生活と自然が共生した創造拠点の形成
@ 交通基盤の整備と合わせた新たな拠点の整備
・開発整備中の拠点に加え、今後発生が予想される大規模遊休地における交通基盤の整
備・強化に合わせた新たな創造拠点の整備
A 新しいライフスタイルと創造性を育む拠点機能の形成
・業務・商業機能や文化・交流機能等の集積に加え、情報、生活文化等の21世紀を支え
る新産業・成長産業を導入
・業務・商業機能等とともに質の高い住宅、文化、アミューズメント機能等を複合的土
地利用の中で整備するとともに、それらの機能について拠点間のネットワーク化
B 創造拠点における環境創造
・豊富な緑の確保、水辺空間の活用、景観のコントロール等による自然環境と共生した
アメニティ豊かな空間の形成
・複合的土地利用空間における市民に開かれた海辺、緑の創造
・環境と共生した住宅地の形成(環境共生住宅市街地、環境実験住宅(エコハウス))
(3) 東京湾臨海地域における環境のストラクチャーの形成
@ 自然生態系に配慮した環境拠点の形成
A 運河、水際線沿いの水のつらなりを活かした水の回廊の形成
・水際線の修復
・水際線沿いの緑の形成
・パブリックアクセスの確保
・コースタル・バイシクル・ウェイ(湾岸自転車道)の整備
B 河川コリドールの維持、保全、創造
・湾岸沿いの水の回廊と連携した河川沿いの緑地の再編(特に荒川沿い)
・リバーサイド・バイシクル・ウェイ(河岸自転車道)の整備
・レクリエーション用地としての活用
・防災避難緑地としての活用
C 東京湾の水質の改善
・物理的、化学的、生物的な総合的水質浄化方策の導入の検討
・底質のヘドロの覆砂・浚渫
・残土等による海底の掘削跡の修復(青潮等の発生の原因の除去)
・植物による水の浄化(アシ原の再生等)
・干潟の機能の恢復(カルティベート(干潟の掘り返し)等)
・ゴミ等の流入物の効率的な除去(河川の出口等でのゴミの収集)
D 工業地帯の環境改善
・工業地帯の緑地の活用(工業団地共通施設として緑地を整備する等地域にとって有効
な形での工場内緑地の再編)
・工場内緑地、緩衝緑地を活用した緑の帯の形成
・工場等の景観改善運動の展開
・産業用建築物の再生利用、風致景観パークの形成
E 創造拠点における環境創造(再掲)
・豊富な緑の確保、水辺空間の活用、景観のコントロール等による自然環境と共生した
アメニティ豊かな空間の形成
・複合的土地利用空間における市民に開かれた海辺、緑の創造
・環境と共生した住宅地の形成(環境共生住宅市街地、環境実験住宅(エコハウス))
(4) 防災に強い空間形成
@ 防災拠点の形成
・耐震化の図られた護岸とその背後のオープンスペースからなる防災拠点の整備
・防災拠点のネットワーク化
A リダンダンシーの確保
・震災時における東京湾の東西での機能の補完、代替
・交通基盤施設の複数化、リダンダンシーの確保
B 石油コンビナート地区における防災に配慮した土地利用の再編
・パイプライン等の活用による危険物取扱施設の移設
・海上輸送の安全性の観点からする危険物取扱施設の新規立地の抑制
・危険物貯蔵施設の地下化
C 埋立地における液状化対策の推進
D 高潮対策の推進、防潮護岸の強化
(5) 新しい土地利用を支える交通基盤の整備
@ 東京〜千葉間等多様な機能を担い、混雑の著しい区間における幹線道路の強化(第二
東京湾岸道路の整備)
A 既存の貨物線等を活用した鉄道(湾岸鉄道)の整備
B 幹線道路を活用したバス網の整備
・東京湾横断道路を使うバス網等
C コースタル・バイシクル・ウェイ(湾岸自転車道)の整備
D 水上交通網の整備
・拠点地区間等を結ぶ東京湾海上交通網の整備
・観光を兼ねた水上交通網の整備
・荒川を活用した物流中心の水上交通の整備(廃棄物、危険物、長尺物等の輸送)
E 港湾機能の再編、整備
・TSL(テクノスーパーライナー)への対応
・コンテナ船の大型化への対応(水深の深いコンテナ埠頭の整備)
・大規模遊休地等を活用したコンテナ埠頭等の整備
F 環境改善に配慮した幹線道路の整備
・第二東京湾岸道路整備にあたっての環境への配慮(干潟と共生した道路構造物の構築)
(6) 内陸とのリンケージによる臨海地域の活用
@ 海への交通アクセスの整備
・鉄道等の公共交通機関による海へのアクセスの整備
・各種の道路による臨海地域と内陸の連携の強化
A 市民が海に接することができる空間の確保、アメニティ空間の恢復
B 防災拠点としての活用、内陸被災地への寄与
C 内陸側の整備とのリンケージ
・内陸側の再開発とのリンケージ
・基盤整備のための代替地の確保
・供給処理施設等の用地確保
・内陸の中小企業の再整備の種地
・ベンチャー企業の発展の空間としての活用
(7) 創造・環境帯形成にむけてのソフトインフラの整備
@ ミィティゲーション(埋立等の事業による湿地の減少等の自然環境へのマイナスの影
響を補償、代替する措置)等の考え方を取り入れた環境拠点形成方策の検討
A 東京湾に関する研究機能の強化
・東京湾に関する研究を実施している研究所のネットワーク化
・東京湾に関する情報交流の中心となり、政策研究、コンサルティングを行う東京湾総
合研究所の創設の検討
B 創造・環境帯形成の支援体制の強化
・パブリックアクセスの確保、水際線の環境改善等の「創造・環境帯」形成に資する民
間の事業への支援(低利融資等)を行う東京湾創造・環境支援機構の創設の検討
・「創造・環境帯」形成に資する事業に対する国の支援の充実等の検討
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W.実現にむけての取り組み
(1) 首都圏基本計画等の国土計画における位置づけ
・本地域が、産業の活性化、新たなライフスタイルの創造、環境の保全・創造等の面に
おいて東京圏の今後の発展を大きく左右する地域であるとの認識のもとに、その再生・
整備のあり方について、首都圏基本計画等の国土計画において適切な位置づけを行う
ことが必要である。
・再生・整備を積極的に図るべきリノベーション地域としての位置づけのもとに、支援、
規制等の各種施策を適切に講じていくことが求められる。
(2) 関係者が共有するグランドデザイン、戦略的拠点プロジェクトを含む地域毎の
マスタープランの策定
創造・環境帯の整備を円滑に実現するためには、その地域の広がり、本地域における
市民・立地企業等の関係者の多さに鑑みて、市民を始めとする関係者が共有するグラン
ドデザイン、地域毎のマスタープランの策定(戦略的拠点プロジェクトを含む)ととも
に、土地利用の円滑な再編を実現するための新たなシステムの構築が必要とされる。
@ 関係者が共有する、広域的な土地利用のグランドデザインの策定等
創造・環境帯の形成にあたっては、市民、立地企業、関係公共団体、国等の関係者が
共通の認識のもと、各々の役割を分担し、その実現に努めていく必要がある。
このため、関係者が共有できる東京湾臨海地域の21世紀に向けた土地利用のグランド
デザインを策定することが必要である。
A 地域毎のマスタープランの策定(戦略的拠点プロジェクトを含む)と広域的な調整等
グランドデザインの具体化を図るためには、地元公共団体等が中心となり、地域毎の
マスタープランを策定するとともに、そのプランにおいて、戦略的に整備を行うべき拠
点地区を抽出し、その地区の整備を戦略的プロジェクトとして位置づけていくことが重
要である。
また、これらマスタープランの策定過程及びそれに基づく事業の具体化等の各段階に
おいて、グランドデザインを踏まえた広域的な連携、調整を関係者間で実施していくこ
とが重要である。
B 市民、民間企業、各種民間団体、地方公共団体、国等の連携による地域づくり
・「創造・環境帯」の形成を本調査により提案しているところであるが、今後は、この
提案を具体化するための広域的なグランドデザインの策定から、地域別のマスタープ
ランづくり、具体の事業化の各段階において、市民を始めとする関係者の創意工夫を
生かした地域づくりを展開する必要があり、そのためにはシンポジウムの開催などに
よりまずこの地域の有する特性、重要性、広域連携の必要性等について関係者の理解
を深めていく必要がある。
(3) 地方公共団体間の広域連携並びに国の関係機関の連携及び調整
・広域交通基盤整備、拠点間の機能分担・連携の必要性や広域的な土地利用の再編が想
定されることから、地方公共団体間の連携や国による調整機能の発揮が求められる。
・東京湾の有する環境については、一体的、総合的な取り組みが必要不可欠であり、地
方公共団体間の連携や総合的な沿岸域管理が求められている。
・港湾、空港、広域幹線道路等の国家プロジェクトが数多く計画・構想されているとこ
ろから、各省庁間の十分な調整に基づく一貫した国の関与も求められる。
・これらの課題に対応するため、国と関係地方公共団体間で、プロジェクトの調整を行
う情報連絡調整会議を設置する必要がある。
(4) 円滑な土地利用再編のためのシステムの構築
@ 民間企業と地方公共団体との連携
東京湾臨海地域の産業地帯等において土地利用の再編を行い、創造・環境帯を形成す
るにあたって、その整備の種地となりうる工場跡地等の低・未利用地の発生は、さみだ
れ的なものとなることが想定される。こうした大規模な低・未利用地の土地利用転換に
あたって、地域全体の長期的なマスタープランなしに個別の企業の意向により土地利用
が変更されることになれば、公共施設整備との不整合や既存の土地利用との摩擦が生じ
る恐れがある。
このため、これら個々の跡地の利活用が、東京湾臨海地域全体の土地利用の再編整備
に資するように誘導するためのシステムの構築が求められる。すなわち、公有水面埋立
の経緯を踏まえた公共性、公益性を十分持ち得る土地利用への転換や開発利益の適正な
還元などについて、民間企業側の十分な理解、協力が必要とされるとともに、公共団体
側も土地利用転換のガイドラインを示し、官民の役割分担の共通認識を形成した上で、
先導的に関連する公共施設整備を行うなど、民間側の土地利用転換を積極的に誘導して
いくことが重要である。
A 新たなシステムの構築に向けて
その際、我が国及び東京大都市圏の経済社会状況を考えると、土地利用の転換は相当
の長期にわたって進められると考えられる。他方、企業経営の観点から早急な土地利用
転換を迫られる場合も生ずると想定される。このようなことから、土地利用転換につい
ては、マスタープランに基づき、部分的、段階的に進められていくこととなり、またそ
の過程においては暫定的な土地利用方式も積極的に活用される必要があり、従来と比較
してより弾力性のある仕組みを整備する必要がある。
このため、以下に例示するような点を含めトータルな土地利用再編のマネージメント
システムを構築することが求められており、今後、その構築のための検討を深化させて
いく必要がある。
・工場等の円滑なリロケーション実現のための工場移転等の情報交換体制の整備
・公共目的の用地の先行取得のための財政措置の強化
・都市機能更新のために公共が用地を取得する際の資金貸付利子の低減
・土地の一時利用、暫定利用を推進するための仕組みの整備(民間所有のまま)
・公共による用地の一時取得、長期リース、借地権の設定方策の検討
・都市計画等(臨港地区、都市計画用途地域 等)の統一的な運用や不確定な時代を前
提とした新たな地域整備手法の整備
等
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参考
東京湾臨海地域のプロジェクト(構想中を含む)
1.拠点整備プロジェクト
(1) 環境拠点の形成
横須賀臨海部 猿島
宮川・侍従川河口部 平潟湾、金沢海の公園
鶴見川河口部 末広海の公園、ごみ焼却場、発電所
多摩川河口部 羽田洲、多摩川河原、浮島沖埋立地(T期、U期)
隅田川河口部 中央防波堤内・外、新廃棄物処分場
荒川河口部 三枚洲、葛西沖人工島
江戸川河口部 三番瀬、人工海浜、下水処理場
花見川河口部 人工海浜、下水処理場
養老川河口部 臨海公園、養老川河川敷
小堰川河口部 盤洲
小糸川河口部 廃棄物処理用地
富津岬 富津干潟
(2) 創造拠点の形成
横須賀臨海部 よこすか・海辺ニュータウン
横浜・金沢臨海部 金沢地先
横浜・都心臨海部 みなとみらい21
京浜臨海部 京浜臨海部第一層における複合的土地利用の推進
(拠点となる地区の創造拠点化)
東京・城南地域臨海部 羽田空港沖合展開跡地
東京臨海部 東京臨海副都心、豊洲・晴海地区
浦安・市川・船橋臨海部 浦安地区、市川U期地区
千葉臨海部 幕張新都心、千葉港中央地区、蘇我臨海部
木更津臨海部 金田地区、木更津内港周辺
2.広域的基盤整備プロジェクト
(1) 道路
・環境との共生が図られた東京湾環状道路体系の整備…東京湾横断道路、第二東京湾岸道
路、東京湾口道路
・臨海部から内陸へむかう幹線道路の整備………………横浜環状道路、川崎縦貫道路、東
京外かく環状道路、千葉環状道路、首都圏中央連絡自動車道
・産業地帯の土地利用の再編を支える道路の整備………京浜臨海部の第一層を縦貫する道
路
(2) 鉄道
・東海道貨物支線、高島線の貨客併用化、東京臨海高速鉄道、京葉線との接続
桜木町〜羽田〜臨海副都心〜幕張〜蘇我のネットワーク化。
更に根岸線、内房線と接続すれば大船〜木更津・君津間が一本の線路でつながる。
・臨海部から内陸へむかう鉄道の整備………………東海道貨物支線と東海道貨物線、南武線、
武蔵野南線、武蔵野線、外房線との接続
東京臨海高速鉄道の大崎への延伸
・新交通の整備
東京臨海新交通、千葉都市モノレール
(3) 港湾
・東京湾外への港湾機能の分散
・大規模遊休地での港湾機能の整備
・コンテナ船の大規模化、TSL(テクノ・スーパー・ライナー)への対応
・東京湾内東西での機能分担(東側での機能強化)
・海上、水上交通網の整備
(4) 空港
・羽田空港の沖合展開
・首都圏の拠点空港の整備
・空港間の連携の強化、ネットワーク化
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